*パラレル
「ヒロト!貴方一体…」
「いいから出せ!キラ!!」
「なっ…今がどういう状況か、分かって言っているんですか!?」
「分かってなくて言うか!!」
「……」
「…すぐ、立て直す。だから…」
「本当に、貴方といると緊張感に溢れていて飽きません」
煩いぐらい砲弾の音が行きかう中、くるりと背を向けるキラ。
「…5分です。私が皆を動かせるのは…」
「……すまん」
「貴方は船長なんですから、いつものように言えばいいんです」
「…すまん」
「………」
そのまま何も言わず部屋を後にしたキラから、視線を腕に抱いている小さな女に向ける。
「…」
太陽を思わせる瞳
春を呼ぶかのように、眩しい笑顔…
「…」
頬に手を添えて、この手に触れるのは…傷だらけの頬
そして目の前のモノを映しているかいないかもわからない、空虚な目
「……っ」
手を滑らせ、首筋へ指を当てれば、弱々しいながらもこの手に返る…鼓動
生きてさえいればいい…
その願いは、叶った
けれど、まさか…こんなに酷い扱いを受けて、生きながらえていたなんて…
ぽつり、ぽつりと青白い彼女の頬に、雫が落ちる
彼女の生を繋ぎ止めていたのは、ただひとつ…
幼い日の、約束
もしも、離れてしまったら
何があっても、生きて…
必ず会おう
死ぬ時は、互いの前で…
願わなければ、誓わなければ良かったのか…
そうすれば、コイツはこんなになってまで生きながらえず…ラクになれたのか
「……すま……」
「ヒロト!」
初めて聞くような、切羽詰ったキラの声にはじかれるよう振り向く。
「船を沈めて、貴方のこれからがあるのか!」
「…」
「ここが、貴方の国であるのなら、貴方のために戦っている民を…友を守るのは責務だ!」
「…」
「彼女は、生きている。彼女が必死に生きてきた意味を、貴方自らの手で摘み取るつもりか!」
「……」
「貴方抜きで、海軍は浮き足立ってる。立て直す好機は今しかない!!」
「………」
「ヒロト!!」
腕に抱いていた彼女を、そっと寝台へ横たわらせ…幼い頃、はじめてキスしたように…の額に口付けた。
「…お前さん、騒がしい場所は好きじゃなかったな。すぐに静かにしてやるから、いい子で待ってろ」
生きている…
そして、これからが…約束されるために、今の俺がやるべきこと…
それは ―――
「おまえら、な〜にちんたらやってんだ」
船体を守り、傷だらけになりながらも…それでも、今日、この日まで…共に、生きてきた仲間。
「…俺の姿がないくらいで、そんな顔してんじゃねぇよ、ばーか」
ヒロト自身、満身創痍という言葉が似合う状態となっているが、その瞳は…いつもと変わらず、いや、いつも以上に輝いていた。
船長室から飛び降り、傷ついた仲間に切りかかる海軍を片っ端から切りつける。
上からは、キラが全ての状況を見渡し、細かな指示を出していく。
船が、嵐を抜け…祝杯をあげるには、まだ少し時間がかかる。
ぬ 盗まれたもの の続編です…というか、寧ろ救出編(苦笑)
探していた人は、とある貴族の家で買われてしまっていました。
イロイロ、本当に、イロイロあった上、ギリギリのところで生きていました。
ただひとつ…幼い日の約束を守るために、ひとりで死なないために。
時折こんなネタ思いつくんですよ…書ければ、長編にしたいパラレルネタで、大事にしたいのでサルベージしました。
2010/09/28